Level 6 トーナメントで勝つために

トーナメントで優勝するため(特に海外でのトーナメントを想定しています)には、トッププレイヤーほど、たくさんの事を考えながらプレイしています。ここでは、トッププレイヤーが何を考えて、どういうことに気を付けてプレイしているかを記述します。


* ピンボールは確率のゲームである

ピンボールはオフェンス(攻撃)とディフェンス(守備)が1セットとなったゲームです。すなわち、フリッパーを操作してターゲットにボールを運び、戻りのボールを如何に処理して次のオフェンスにつなげるか。この動作の繰り返しです。もし、ボールコントロールが100%なら、ボールドレインさせることなく無限にプレイすることが可能ですが、実際はそう簡単にはいきません。

トッププレイヤーは、オフェンスの精度を限りなく100%に近づけ、またボールディフェンスも100%に近づける努力をします。オフェンスにしろ、ディフェンスにしろ、その時点でとれるアクションとして複数の選択肢があったとしても、その中から更に最適でボールドレインさせる確率が低くなる選択肢を取るよう瞬時に判断しています。この継続こそが、トーナメントで力を発揮できる源泉となります。

オフェンスの1ショットに精神力を集中し、ディフェンスの仕方1つで運命が分かれます。トッププレイヤーは、一般プレイヤーの想像以上に1ショットに精力を注ぎ、全力でディフェンスしています。

オフェンスとディフェンスによるボールドレインの確率を1%でも抑えるプレイを常に心がけているのです。


* プランジャーショットは、全てが決まるほど重要である

ボールを打ち出すと、場合によっては、運悪く、フリッパーに1度も触れることなくボールドレインすることがあります。しかし、これは、誰が悪いわけでもなくプレイヤーの自業自得です。なぜなら、プランジャーの引っ張りをあと1mmでもずらしていれば、おそらくそのコースにはボールが来ていなかったでしょう。それほど、プランジャーショットは重要であり、スキルショットのような特別なフィーチャーが無いとしても集中して打たなければなりません。事前に練習できる場合は、具合を確かめておくと良いでしょう。

また、プランジャーのスプリングは、温度と湿度によってバネの強弱が変わるのでプレイ直前の状態を記憶しておきましょう。

プランジャーではなく、ボタンによるオートシューターの場合でも、ボールの射出は一様ではありません。マシンにもよりますが、一瞬だけボタンを押して離した場合と、しっかり射出するまでボタンを押しっぱなしにした場合とではボールに加わる力が違う場合があります。(制御機構によっては、ほぼ変わらないものも、もちろんあります)こういう特性も覚えておきましょう。


* 一部のテクニックはマシンによっては無効化される

具体的な例を挙げると、1990年代前半のデータイースト社製のマシンの一部では、他のメーカとフリッパーの動作構造が違います。これによって、ボールをフリッパーでオフの状態で受けるテクニックの、Dead flipが無効化され跳ねることなくボールドレインする場合があります。新品のマシンではそういう事が発生しづらいですが、ある程度経年劣化しているマシンだと、自分のイメージ通りにボールが運ばれないことがあります。また、データイースト社マシンの劣化だけでなく、他メーカーであっても、メンテナンス時の部品のつけ忘れや、適正な部品をつけていないフリッパーも同様に、Dead Flipが無効化されることがあります。


* ラバーの反射はメーカーや色毎に違う

フリッパーラバー以外はそんなに気にすることはありませんが、フリッパーラバーに関しては、メーカーや色によって弾性が変わります。事前に練習が可能な場合、Dead Flipをした時に、反射の具合を記憶しておきましょう。


* マシンの傾きが規定通りとは限らない

マシンの傾斜は、それぞれのマシン毎に決まっていますが、垂直方向へは、だいたい、6~6.5度のものが多いです。ですが、フリッパーの力の強弱や、物理的構造上の問題で、ゲーム性が損なわれる場合は、6度未満で調整されることもあります。同様な理由で、水平方向の傾きも0度で無い場合があります。もちろん、設置に疎い店舗であれば、いい加減な傾斜にしている場合もあります。水平方向に0.2度傾斜が偏るだけでボールの動きは相当変わります。しかし、トーナメントで勝つためには、その傾斜をプレイ中、または他プレイヤーのプレイ中に素早く察知し、自分の脳内で変換をしながらプレイします。ストレートに落下してくるボールが、カーブを描いて落下してくるようになるわけですが、その補正を、自分の経験と勘で補いプレイすることになります。難易度上がりますが、トーナメントでは、補正能力が重要になる場合もあります。


* マシンのコンディションが常に良いとは限らない

そもそも、マシンが正常に動くかどうかすらわかりません。トーナメントではあまりありませんが、もしかしたら、やむなくコンディションの悪い状態のマシンでプレイさせられる事があるかもしれません。例を挙げると、どうしてもランプレーンにボールが昇らないとか。そういうケースはよく考えられます。しかし、トーナメントであれば、条件は皆一緒のため、不満を言っても仕方ありません。プレイヤーは、その条件下で、いかに最適なプレイをするかが大事になります。

ある意味残念な話ですが、2021年時点での日本の優良ロケーションではコンディションの良いマシンばかりのため、悪コンディション下で練習する機会があまりありません。海外トーナメントでは劣悪な環境、コンディションでも戦えるテクニックと経験が必要な場合があります。


* TiltギリギリまでWarningを消化する

IFPAのトーナメントは、マシンのセッティングも規定しており、極力、遵守することになっています。しかし、マシンの仕様や筐体の仕様で遵守できない場合等は努力義務となっています。Tiltの敏感さについての規定はありませんが、Warningの数は、基本的には2、少なくとも1 Warningは無ければなりません。通常は、2 Warningsあるため、Slap save等で捻り技を使う場合は、残りのwarning数、Tiltになった時のロストボーナスを考慮してプレイする必要があります。いずれにしても、wariningを消費していないのであれば、黙ってボールを落とすよりは、何らかのアクションを取った方がよいでしょう。

* 先発プレイヤーのプレイ内容からマシンの状態を把握する

プレイヤー1だった場合はどうにもなりませんが、後続のプレイヤーは、先発のプレイヤーのプレイから様々な状況や特性を読み取ることができます。スキルショットの位置、ボールの反射、フリッパーの反射、傾斜、戦略、その他諸々です。それらに加えて、相手プレイヤーが何をしようとしているのか。これらを総合判断して自分の戦略に組み込むことができます。


* 予選通過順位を調整する

決勝トーナメントが、シングルエリミネーション、ダブルエリミネーションの場合、大抵は、予選通過者の順位で対戦相手が自動的に決まります。例えば、64人トーナメントであれば、特段の取り決めが別に無い限り、1回戦を戦うのは1位と64位、2位と63位・・・というようになります。ある程度実力がないとできませんが、1回戦の相手が苦手な人になるのを避けるために自分の順位を調整することも重要です。


* 4人制Matchplayなどでは、排除したいプレイヤーに合わせて自分のスコアを調整する

PAPA方式のトーナメントによくあるスタイルですが、4人同時にプレイをして、ゲーム終了後の順位によってポイントを割り振られる試合があります。それを3セットか4セット繰り返して、上位2名が次戦へ進出するような場合で、自分が既に、次戦進出を確定させている場合、最終試合の順位次第で残りの進出者が決まります。

このような場合は、敢えて1着を狙う必要がないので、「苦手なプレイヤーが敗退、または不利なポジションに配置されるように自分のスコアを調整して終了させる」戦略が使えます。ある意味、ある時点でわざとボールを落とすことにもなるので、あからさまにやると不評を買いますが、あたかも、失敗したプレイを演じて終了させるテクニックもあります。


* ブラフも少しは大事

海外では日本人がどれくらい強いのかわからない人が多いです。誰が対戦相手であっても、相手の実力がわからない人とやるのは、海外勢にとってもやりづらいものです。また、トッププレイヤーの中には、特定の日本人を苦手としている人もいます。このケースに限りませんが、ピンボールは運の要素もあり、絶対はありません。多少、プレイに自信が無くても、「俺は上手いので余裕だぜ」くらいの雰囲気を出すだけで、相手が勝手に自滅する場合もあります。ただ要所要所のプレイ対応(特にディフェンス)が正確でないと見抜かれます。


* 食事に気を付けましょう

トーナメント出場の最大の敵は体調不良です。特に海外では水は買って飲むのが普通です。筆者は台湾オープンの大会時に残念ながら腹痛を起こし、Pinball Frenzyの最中に戦線離脱せざるを得なかったため、残念ながら優勝できず準優勝に甘んじた経験があります。気を付けてはいたのですが、どこでおかしくなったか見当がつかず、運に見放されてしまいました。トイレに籠らなければならない状態は避けたいものです。ちなみに、Frenzyスタイルだったため、戻り次第参加はできましたが、通常のトーナメントであれば、2分離席すると失格になるか、1ボールを失います。


* 試合は気持ちが強い方が勝つ

究極ですが、対戦は勝ちたい気持ちが無いと強運も引き込めませんし、プレイの精度も甘くなります。精神的な強さのことや思い込みのことをいうだけではなく、それを原動力とした準備もまた必要です。また、本気で勝ちたいと思っていれば、事前の念入りな準備はもちろん、体調の他、コンディションもトーナメント期日に最高になるように持って行っている事でしょう。ゲンを担ぐ人もいるかもしれません。

トーナメント、特に、海外のビッグトーナメントを勝つには、勝って当然になるだけの準備をすべきで、自分のテクニカルな実力と運だけでは勝ち上がることはできません。最低でも、対象マシンの攻略とスコア獲得の組み立てシーケンスを自分の物にしておかなければなりません。筆者の友人であるPinburghの優勝者は、自分で600機種の攻略情報をExcelにまとめており、自分なりの攻略情報を用いて優勝しました。ある程度の才能は必要ですが、ピンボールに関しては、努力とマシン毎の知識がかなり大きいのです。

30年前には、日本の至る所にピンボールがあり、1つのマシンに数週間やりこむこともできましたが、現在ではそれもできません。これを補うには、デジタルピンボールやエミュレーターでルールを把握し、攻略シーケンスだけではなく、どこのスイッチがいくらのスコアを獲得できるかまで把握していなければなりません。1台のマシンをとことんやりこみ、最近の新台を含めて、最低でも200機種の攻略。トッププレイヤーはそれくらいの情報を持っていると思いましょう。

知らないマシンをプレイせざるを得ない場合は、先行プレイヤーの真似をするしかありません。2000年代くらいまでのマシンであれば、見て真似をすることも可能ですが、最近のマシンでは通用しないため、海外を目指す人は新台も徹底的にやりこんでおきましょう。